③ 旅行会社の変化 コロナによる旅行会社への影響も甚大で、早期退職・転職者が大量に発生し、人材の流出が相次いだ。中堅・ベテラン社員が抜け、人手不足のみならずノウハウや経験値が失われたことにより、学校への営業や提案、添乗スキルの減少・低下などが弊害として聞かれる。 また、海外渡航の制限により海外の添乗経験が減少し、併せて、海外ホテルのデポジット(保証金の前払い)や、国際航空券の発券期限の厳格化、為替相場の変動等により収益見込みが立たず、海外教育旅行の販売に対し消極的になっているという状況が見られる。 以上のように、人手不足や物価高騰、手配がコロナ禍前と同じように進めることができないことなどから、学校から今まで通りの内容・金額で入札依頼があった場合、旅行会社によっては入札を辞退する状況が見られる。今回調査のコメントでも、入札に応じてくれる旅行会社がないといった声が、多くの学校からあがっている。④ 人手不足の加速 以前から、観光業界(バス、宿泊、食事・観光施設等)は、人口減少や高齢化により働き手が減少傾向であったところに、コロナによる影響で人手不足が一気に進んだ。宿泊・食事施設では、団体を受け入れる場合、大人数に短時間で食事を提供しなくてはならないため多くの人手が必要となるが、要員を確保できず、大型団体の受け入れができない施設や、食事提供はしないことを条件にする宿泊施設も出てきている。今後もこの傾向は続くと思われる。⑤ 貸切バスの予約困難、料金の上昇 価格競争の激化に伴い安全コストを反映させるため、2023年8月に貸切バスの運賃・料金が改定された。また、トラック、バス等のドライバーの労働条件向上のため、拘束時間の基準が2024年4月から変更となることを受けて、貸切バスの稼働時間が今まで以上に制限された(2024年問題)。これらにより、貸切バスの予約が困難になり、運賃も値上がり傾向にある。⑥ 航空業界の変化 航空業界は、航空需要の減少から燃料効率の良い中小型機への機材転換を進め、また、収益性の高いビジネス席等を増やしているため、団体旅行向けの普通席が減っていて、団体での座席確保が困難となった。国際線の運航便数は徐々に回復しつつあるが、コロナ禍前には戻っておらず、同様にインバウンド需要増加に伴い、座席の確保が難しくなっている。コロナによる人材流出もあり、裏方である地上職員が不足し、人件費が高騰している。併せて、燃料価格の高騰も影響して運賃は上昇傾向であり、今後需要が回復しても運賃が安くなる要素は少ない。⑦ 気候変動と災害リスク 2023年の夏の平均気温は統計開始以降、最も高くなった。また、6月の台風による大雨では、新幹線の遅延・運休により、多くの学校が延泊や列車振替の対応を余儀なくされた。こうした気候変動による影響から、修学旅行の時期を見直す動きも一部出て来ている。また、冬場の雪不足から、スキーを中心とした修学旅行の実施時期や内容について見直す必要が出てきたという意見も、今回調査のコメントにある。 2023年5月5日に最大震度6強の奥能登地震、2024年1月1日に最大震度7の能登半島地震が発生し、北陸方面への修学旅行を予定していた一部の学校が、延期または方面変更を余儀なくされた。 2023年度は、コロナ禍からの回復に伴い、多くの学校で修学旅行が実施された。しかし、今回の調査結果から、修学旅行を取り巻く環境が大きく変化していることが明らかになった。特に、費用高騰は、学校や家庭にとって大きな負担であり、修学旅行の実施方面や日程、内容の見直しが必要となってきている。 また、学習指導要領改訂に伴い、修学旅行に求められるものが変化していることもわかった。探究学習や平和学習、地域住民との交流や、SDGsの目標達成に向けた活動など、生徒の主体的な学びを促すことが重視され、今後の修学旅行は、単に観光地を巡るだけでなく、生徒の成長に繋がるような、より深い学びの場となることが求められている。現代社会において、修学旅行で得られる多様なリアルな経験は、生徒たちの創造性、コミュニケーション能力、問題解決能力を養う上で不可欠である。異なる文化に触れ、仲間と協力し、目標を達成する経験は、生徒たちの視野を広げ、社会への理解を深め、そして自ら考え行動する力を育む。 新たな課題を克服し、より良い修学旅行を実現するためには、学校、観光業界、自治体、国が一体となって取り組むことが重要である。 今回の調査にご協力いただいた学校関係者の皆様に感謝申し上げる。本調査結果が、今後の修学旅行のあり方を考える上での一助となり、これからの修学旅行が生徒たちの成長を促す貴重な体験の場となることを切に願う。おわりに教育旅行年報「データブック2024」 45今後の修学旅行のあり方に関する調査まとめ[中学校・高等学校]
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